学術集会

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学術集会

抄 録

稀な菌種2 

D-05

起因菌の判断に苦慮した Paecilomyces variotii 感染症の一例

演者:渡辺 哲(千葉大学真菌医学研究センター 臨床感染症分野)

はじめに:

現在一般に臨床現場で利用されている深在性真菌症診断のための血清マーカーは種類が乏しいこともあり、診断にはしばしば困難を伴うことが多い。今回我々は起因菌の判断に苦慮した肺真菌症の症例を経験したので提示する。

症例:

患者は67歳時に血痰が出現、近医で抗菌薬を3ヶ月投与されたが症状が改善しないため前医へ紹介された。右上葉に結節影を認め、気管支鏡下検体より糸状菌を検出、当センターにてPaecilomyces variotii と同定されたため、同菌による感染症と診断された。イトラコナゾールの内服が開始されたが4ヶ月後にご本人の希望で内服の中断、転院を希望され当院へ紹介となった。当初より血清β-D-グルカンの上昇(最高値30.2pg/mL)を認めていたが症状は起床時の喀痰のみで落ち着いていたため無治療で経過観察の方針となった。5年後に血清アスペルギルス抗原検査を施行したところ2.2と高値を認めたため、肺アスペルギルス症の合併と診断しイトラコナゾールの内服が再開された。内服の継続にもかかわらず血清アスペルギルス抗原値は1.8~4.2と低下せず、また画像上の変化も見られないまま1年間で治療は終了、その後再び経過観察となった。さらに1年後、喀痰検査にてPenicillium sp. 類似の糸状菌が一回のみ検出されたが同定に至らず、無治療での経過観察が9年間継続され現在に至っている。症状、画像ともにほぼ変化は見られていない。

考察:

治療経過を振り返ってみると本症例にはいくつか疑問点が存在する。すなわち、① P. variotii に対して抗真菌治療の必要があったのか ② 血清β-D-グルカンおよびアスペルギルス抗原高値は本菌によるものであったのか ③ アスペルギルス症の合併はあったのか などである。文献上はP. variotii のほか、P. lilacinusPenicillium chrysogenum, P. digitatum などでもアスペルギルス抗原検査の交差反応性が報告されており、本症例でのアスペルギルス抗原陽性はP. variotii によるものであった可能性がある。